魚に気をつけろ!

不慣れな異国の地での生活というものには色々とやっかいなことがありますが、その最たるものは「体に変調を来たしてしまう」ということではないでしょうか。
(※注意!今日の話題はかなり汚い内容です。下ネタが苦手な方、お食事中の方はお読みにならないほうがよいかと思います)。

さて、よく晴れた土曜日の朝。トイレに行って便器にまたがったところ…えっ!何だこれは!!肛門からオレンジ色の液体が出てくるではありませんか!一瞬にして血の気が引きました。ど、どうしよう…。とりあえず、例のブツをデジカメにおさめて、すぐにお家の近くの病院に行きました。

しかし今日は土曜日。病院に人の気配はありません。電気が点いている部屋はあるけど、そこは産婦人科のようです。えーい仕方がない。意を決して部屋の中へ。

あのー、どなたか胃腸科のドクターに会いたいのですが…。受付にはお姉さんが2人。「オッケー、ちょっと待っててね」よかったー、なんとか取り次いでもらえるらしい。間もなくしたら実にやさしそうなドクターが。あっ、あの、ケツからこんなものが…。「むっ、何だこれは?オッケー、オレは産婦人科医だが、安心しろ。これからセントジョセフ病院の救急外来へ行って診てもらいなさい。紹介状を書いてあげるから」

よかったー。というわけで、街でいちばん大きなセントジョセフ病院へ。「ハロー、今日はどうした?」あの、ケツからこんなものが…。「うわっ、血便か?よし、直腸検診やるから、ケツ出してベッドに横になってみろ」えーっ、直腸検診…まさか海外でバージンを失うことになろうとは…。

結局、直腸検診でも異常は見つからず。改善しないようだったら月曜日にまたおいで、ということになりました。しかしあのブツは何だ?血だったら水に溶けるはずだけど、水面に浮いていたし…。油か?しかしなぜケツから油が?何かヘンなもの食べただろうか…。ひょっとして金曜の昼に食堂で食べた「バターフィッシュ」か!?

ある種の魚は体内にワックスという油を蓄積することがあります。これは人間の体内では分解されないので、一度に大量に摂取すると消化されずにそのまま排出されてしまうことがあります。

病院からの帰りにちょうどシンヤ君に会ったのでこの事を話したのですが、彼の友人もやはりヘンな魚を食べてケツから油を出したことがあるそうです。むむ、ますます疑いが濃くなりました。研究所には油の成分を調べる設備は整っています。さらに、私の今の仕事はプランクトンに含まれる油の分析なのです。それじゃあ自分で「例のブツ」の成分を調べてみればいいんじゃないか?もし主成分が魚肉由来のワックスなら原因は明らかです。

お家に帰ってから再びケツから「ブツ」が出てきたので、キッチンペーパーで拭き取り、ビオフェルミンの空き瓶に入れて冷凍庫で保管しました。これを月曜日に研究所に持って行って分析すればいいわけです。

f0050685_1631297.jpgさて月曜日、瓶の中にメタノールとジクロロメタンを入れて「ブツ」から油を抽出します。「グーテンモルゲン!朝から実験か?何を分析してるんだ?」こっ、この前日本で採ってきたサンプルだよ…。まさか自分のうんちを分析しているなどとは口が裂けても言えまい…。


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抽出した油を、シリカゲルを吹き付けたガラスプレートの上に乗せて、溶媒を染み込ませて各成分に分離します。理科の実験でやった「ペーパークロマトグラフィー」の原理です。さらに硫酸を吹き付けてオーブンで焼いて色をつけます。この色のついた部分に紫外光を当てて、その面積を測ります。その結果…

f0050685_16332144.jpgなんとワックスの成分が66%!これでは消化されないはずです。人間は体内で「リパーゼ」という酵素を使って油を分解しますが、リパーゼはワックスを分解することができないのです。


f0050685_16333770.jpgさて次にワックスをさらに細かく調べていきます。油にメタノールと硫酸を加えて加熱し、脂肪酸と脂肪アルコールに分離します。コイツを「ガスクロマトグラフィー」という機械を使って分析します。その結果…

炭素原子の数が多い「イコセン酸」という脂肪酸が多く含まれていました。これは寒くて深い海に棲む生き物によく含まれる物質です。しかもその化学構造から、大西洋産の生物由来であることが分りました。

では疑いが持たれている「バターフィッシュ」とはどんな魚なのか?ネットで調べてみたところ…

スズキ目ゲンゲ亜目ニシキギンポ科の深海性の魚であることが分りました。うわー、いかにもハラ壊しそう。これでもう私をパニックに陥れた原因は明らかです。そういえば北海道にいた頃、トロール調査でゲンゲとかギンポとかよく捕れたっけ。うわー、こいつは体に悪そうだぞー、って思っていましたが、まさか遠いドイツの地でコイツに当たることになろうとは…。
(訂正:その後真犯人はゲンゲではなくクロタチカマス科の魚であることが分かりました。上の記事をご参照ください)

最後まで下ネタにつきあって下さった方々、ヨーロッパを旅行される際、魚には十分注意なさってください。結構ヘンな魚がレストラン等で出されるらしいです。あと、このブログを読んでくださっている方の中には「業界」の方が多くいらっしゃるでしょうから、「オレはこんなヤバい事例を知っている」等の情報をお持ちでしたら、コメントよろしくお願いします。
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by primno_abyssalis | 2006-06-28 16:43
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